「大声で叫べば気づいてもらえる」——溺れているときは、声が出ないことがあります
いざというときの行動知識
「大声で叫べば気づいてもらえる」——溺れているときは、声が出ないことがあります
いざというときの行動知識
この記事は、本質の防災4STEPの「STEP4|行動を決める」で心構えを整えたあと、実際の応急手当の基本を扱う記事です。応急手当の基本、やけどの手当、胸骨圧迫、骨折・ねんざの見極め、子どもの誤飲、窒息の防止と対応、出血の応急処置に続く、いざというときの行動知識ゾーンの8本目として、溺水事故への対応について整理していきます。
「溺れている人は、バシャバシャと音を立てて助けを呼ぶはず」——そう思っていませんか。
実は、溺れているときほど、声を出すことも、大きく手を振ることもできないとされています。今日は、溺れているときの本当のサインと、浴槽内・自然水域それぞれの注意点を確認していきましょう。
30秒でわかるまとめ
このページが目指すこと
この記事は、水難救助の専門家を目指すためのものではありません。「溺れている人にどう気づくか」「気づいたときに何をすべきか」という発見と初動の基本、そして浴槽内・自然水域それぞれの予防のポイントを知っておくことが目標です。心肺蘇生の具体的な手技は、胸骨圧迫を扱った別記事でご紹介します。
まずは、溺れている人の本当のサインから確認していきましょう。
この記事でわかること
- 溺れている人が、実際にはどんなサインを見せるか
- 発見したときに、まずすべきこと
- 浴槽内の溺水で、乳幼児・高齢者それぞれが気をつけたいこと
- 自然水域(河川・海)での溺水を防ぐためのポイント
- 「溺れる=バシャバシャ暴れる」というイメージが、今も広く信じられている理由
「溺れている人って、バシャバシャ音を立てて助けを呼ぶんだよね?」
実は、そうとは限らないんです。溺れているときほど、声を出すことも、大きく手を振ることもできなくなることがあります。
まずは、本当のサインを知ることから始めましょう。
映画やドラマのイメージが、発見を遅らせることがあります
映画やドラマで見る「溺れるシーン」は、たいてい大声で助けを呼び、水面を激しく叩いています。そのイメージのまま水辺やお風呂を見守っていると、本当に溺れている人を見逃してしまうことがあるとされています。
実際の溺水は、もっと静かに、あっという間に起きることが多いといわれています。
まずは、溺れている人の本当のサインを、一緒に確認していきましょう。
声も出せず、体も大きく動かせなかった
これは、私自身がまだ子どもだった頃の体験です。川の浅瀬で遊んでいて、近くに深いところがあることは知っていたのですが、遊びに夢中になっているうちに足を滑らせ、そのまま深い方へ流されてしまったことがあります。
あまりに突然の出来事に、泳ぐことができませんでした。そのまま流されるしかなく、幸い浅瀬まで流れ着いて足がつき、大事には至りませんでした。
溺れている間、体を大きく動かすことも、声を出すこともできませんでした。溺れている本人は、そもそも泳げない状態にあるからこそ溺れているわけで、水中で懸命にもがくことしかできません。あのとき、周りにいた人と一瞬目が合ったのですが、その表情は「溺れている人を見ている」ようには見えませんでした。傍から見れば、ただ水浴びをしているように見えていたのだと思います。
この体験は、後になって「溺れている人は静かに沈む」という考え方を知ったときに、強く実感として重なりました。溺れているときに大声で助けを呼べる人は、実はそれほど多くないのではないかと感じています。
ここから、溺れている人の本当のサイン、発見したときにすべきこと、浴槽内と自然水域それぞれの注意点を確認し、最後に、なぜこのイメージが今も広く信じられているのかにも軽く触れていきます。
1つ目|溺れている人は、静かに、まっすぐ沈みます
アメリカの水難救助研究者Francesco (Frank) Pia氏が1974年の論文(”Observations on the drowning of nonswimmers”)で示した「本能的溺水反応」によると、溺れている人は呼吸をすることに精一杯で、大きな声を出す余裕がないとされています。体は直立したまま沈み、腕は横に水面を押さえつけるような動きになり、水面から口を出し続けることが難しく、この状態が20〜60秒ほど続いたあと沈んでしまうとされています。
映画やドラマのように大きく手を振ったり叫んだりすることは少なく、傍から見ると、水遊びをしているように見えてしまうことがあります。「静かだから大丈夫」ではなく、「静かだからこそ注意が必要」だと考えてください。
- 声を出せない、助けを呼べない
- 手足を大きく振れず、腕を横に押さえつけるような動きになる
- 体が直立したまま、沈んでいく
- 顔が水面に浮いたり沈んだりを繰り返す
発見したら、消防庁の資料によると、救助者自身が飛び込んで助けに行くことは危険なため避け、大きなペットボトルなど浮くものを投げ入れることがすすめられています。同時に、ためらわず浮くものを投げ入れ、迷わず119番通報してください。
陸や岸に引き上げたあと、反応や呼吸がない場合は、お腹を圧迫して水を吐かせようとするのではなく、ためらわず心肺蘇生を開始してください。日本赤十字社によると、水を吐かせることよりも心肺蘇生を優先することがすすめられており、長時間水に沈んでいた場合でも蘇生した例があるため、あきらめずに蘇生を続けることが大切だとされています。具体的な胸骨圧迫の手順は、こちらの記事で詳しく確認できます。
2つ目|浴槽の溺水は、対象によって注意点が変わります
こども家庭庁の資料によると、乳幼児はわずかな水深であっても浴槽で溺れる危険があるとされています。目を離さないこと、入浴後は浴槽の水を溜めたままにしないことが基本です。
一方、消費者庁の資料によると、高齢者の浴槽内での溺死は、交通事故による死亡者数よりも多いとされています。事故は11月〜4月の冬季に集中しており、急激な温度差によるヒートショックが関係していると考えられています。
- 入浴前に脱衣所・浴室を暖めておく
- 湯温は41度以下、入浴時間は10分程度を目安に
- 浴槽から急に立ち上がらない
- 食後すぐ・飲酒後・医薬品服用後の入浴は避ける
- 家族に一声かけてもらい、見守ってもらう
乳幼児も高齢者も、「少しの間だけなら大丈夫」という油断が事故につながりやすいとされています。入浴中は、目を離さない・声をかけ合う習慣を、家族の中で共有しておくと安心です。
3つ目|河川・海では、子ども・学童の溺水が急増します
こども家庭庁の資料によると、5歳以上になると自然水域(河川・海・湖)での溺水が急増し、河川での事故は死亡事故全体の約57%を占めるとされています。10〜14歳の年代では、溺水が事故による死因の中で最も多いともされています。
プールに比べて、河川や海は水深や流れの変化が目に見えにくく、浅瀬で遊んでいるつもりでも深みに近づいてしまうことがあります。
- 河川・海ではライフジャケットを着用する
- 決められた遊泳区域・ルールを守る
- 目を離さず、手の届く距離で見守る
- 「浅瀬だから大丈夫」と思い込まない
4つ目|イメージは、なかなか上書きされにくいものです
Frank Pia氏が本能的溺水反応を示してから半世紀以上が経ちますが、「溺れる=激しく暴れて助けを呼ぶ」というイメージは、映画やドラマの影響もあり、今も根強く残っているといわれています。心理学者のStephan Lewandowsky氏らが2012年にまとめた分析(Psychological Science in the Public Interest誌)でも、一度信じた情報は、後から正しい情報を知っても訂正されにくく、記憶に残り続ける傾向があるとされています。
古いイメージを持っていたこと自体を気にする必要はありません。大切なのは、「バシャバシャ暴れる」を「静かに沈む」に、知識をアップデートしておくことです。
この記事で参考にした情報
本文中で紹介した内容は、以下の公的機関・研究にもとづいています。最新の内容は、各リンク先で随時更新されています。
- 日本赤十字社溺れた人の手当|講習の内容について 記事を見る ›
- こども家庭庁水の危険は近くにあります、みんなで危険回避! 記事を見る ›
- 消費者庁冬季に多発する高齢者の入浴中の事故に御注意ください! 記事を見る ›
- 消防庁応急手当WEB講習|溺水に対する応急手当 記事を見る ›
- 学術研究(参考)Frank Pia (1974) Observations on the drowning of nonswimmers/本能的溺水反応 解説を見る ›
- 学術研究(参考)Lewandowsky et al. (2012) Misinformation and Its Correction 論文を見る ›
実際の救助・応急手当の手技は、消防署や日本赤十字社の救命講習でも確認しておくと安心です。
「静かだから大丈夫」ではなく、「静かだからこそ注意が必要」——これだけ覚えておいてほしいと思っています。
発見したら、飛び込まず浮くものを投げて、迷わず119番。反応がなければためらわず心肺蘇生を。それだけで、とっさの判断がぐっとしやすくなります。
今日からできる、3つの小さな一歩
すべてを一度に覚え直す必要はありません。まずは1つだけ試してみてください。
水辺に行くときは、ペットボトルなど浮くものがすぐ使える場所にあるか、意識しておく
お風呂に入るとき、乳幼児からは目を離さない・高齢の家族には一声かけてから入ってもらう習慣を確認する
「溺れているときは静かなことが多い」というサインを、家族で一度共有しておく
まずは今日、ひとつ確認してみるところから。それだけで十分な一歩です。
とらまるくんと考えてみよう
そうなんです。溺れている人は、映画のように大きな声を出したり暴れたりできません。「静かだから大丈夫」ではなく「静かだからこそ気をつける」——その考え方を、ぜひ覚えておいてください。
溺水事故の対応 よくある質問
溺れている人を見つけたら、まず何をすればいいですか?
自分で泳いで助けに行かず、ペットボトルなど浮くものを投げ入れてください。同時に、迷わず119番通報してください。
溺れている人は、本当に静かなのですか?
本能的溺水反応と呼ばれる医学的な概念によると、溺れている人は呼吸に精一杯で、声を出したり大きく手を振ったりする余裕がないことが多いとされています。傍からは水遊びをしているように見えることがあります。
引き上げたあと、反応がない場合はどうすればいいですか?
お腹を圧迫して水を吐かせようとするのではなく、ためらわず心肺蘇生を開始してください。具体的な胸骨圧迫の手順は、胸骨圧迫を扱った別記事で詳しく確認できます。
お風呂での溺水は、子どもだけの心配ですか?
乳幼児だけでなく、高齢者の浴槽内での溺死も交通事故死より多いとされています。冬季のヒートショックにも注意が必要です。
川や海で気をつけることはありますか?
ライフジャケットの着用、遊泳区域・ルールの順守、目を離さず手の届く距離で見守ることがすすめられています。浅瀬に見えても深みに近い場所があることを意識してください。
この記事のポイント
- 溺れている人は、静かに、まっすぐ沈むことが多いとされている。
- 発見したら、飛び込まず浮くものを投げ入れ、迷わず119番通報する。
- 反応・呼吸がなければ、ためらわず心肺蘇生を(手技は胸骨圧迫の記事を参照)。
- 浴槽内は乳幼児だけでなく高齢者のヒートショック関連の溺水にも注意が必要。
- 自然水域は子ども・学童の事故が多く、ライフジャケットと見守りが基本。
まとめ
溺れている人は、映画やドラマのように大きな声を出したり激しく暴れたりすることは少なく、静かに、まっすぐ沈んでいくことが多いとされています。「静かだから大丈夫」ではなく、「静かだからこそ気をつける」という視点を持っておくことが、発見の第一歩になります。
発見したら、自分で泳いで助けに行かず浮くものを投げ入れ、迷わず119番通報を。反応がなければ、ためらわず心肺蘇生を。浴槽内では乳幼児と高齢者、自然水域では子ども・学童と、対象によって注意点は変わりますが、いずれも「目を離さない」ことが基本です。「バシャバシャ暴れる」から「静かに沈む」へ——その小さな知識の更新が、いざというときに家族を守る力になっていくのだと感じています。
日常を整えることが、そのまま非常時の安心につながる。
とらまる
一緒に学ぶ仲間
白いしっぽの先がチャームポイントの、好奇心いっぱいのトラの子。わからないことは素直に「どうして?」と聞くのが得意で、みんなの「聞きたいけど聞けない」を代わりに聞いてくれます。
ふくぼう先生からもらった「まなびのスカーフ」が自慢です。
▶ とらまるのプロフィールはこちら ›関連記事
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いただいたご質問は、今後の記事づくりの参考にさせていただきます
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