「何日分あれば足りるか」を決めている人と、決めていない人の差
STEP4|行動の設計図
「とりあえず備えている」人と、「何日分あるか」を答えられる人の違い
「うちは多めに買ってあるから大丈夫」——そう思っていても、実際に何日分あるか、すぐに答えられるでしょうか。数字を決めているかどうかが、いざという時に迷わず動けるかどうかを分けると考えられています。
「備えている」という感覚と、「何日分あるか」を言葉にできる状態は、実は少し違うものかもしれません。漠然とした安心感で止まってしまうか、具体的な一歩に進めるか——その分かれ道には、ある共通した理由があるようです。今日はその仕組みを、一緒にひも解いていきましょう。
30秒でわかるまとめ
このページが目指すこと
この記事は、備蓄の量を競うためのものではありません。「備えている」という感覚だけで止まらず、「何日分あれば自分たちは大丈夫か」を言葉にできる状態に近づくことが目標です。数字を決めることが、なぜ行動につながりやすいのか、その理由から確認していきましょう。
まずは、行政が備蓄の目安をどう考えているのか、その背景から見ていきます。
この記事でわかること
- 「備えている」のに何日分か答えられない、その理由
- 行政が備蓄の目安をどのように考えているか
- 具体的な日数を決めることが、行動につながりやすい理由
- 日数を決めるときに意識しておきたい視点
- 実際に何を、何日分そろえるかを整理する際に参考になる視点
「うちの備え、何日分あるか知ってる?」
それ、とらまるくんだけではないんですよ。
「備えている」と「何日分あるか答えられる」は、実はまったく別の状態だと考えられています。
お気に入りの棚を整えるときと、似ている気がする
お気に入りの器や調味料を選んで棚に並べるとき、「なんとなく増えてきたな」で終わらせる人と、「これがあと何回分」まで把握している人がいます。後者の方が、気づけば無駄なく気持ちよく暮らしていることが多いのではないでしょうか。
実はこの「数字で把握しているかどうか」という感覚、日々の暮らしの備えにもそのまま当てはまるのかもしれません。「多めに買ってあるから大丈夫」という漠然とした安心感と、「うちは何日分ある」と言葉にできる状態とでは、いざという時の動きやすさが変わってくると考えられています。
好きなものを、心地よく管理する延長線上に、この「何日分」という視点を置いてみること。それが、この記事でお伝えしたい考え方です。
「備えていますか」には「はい」でも、「何日分」には言葉に詰まる
防災士としての研修や講話の場では、「備えはできていますか」と尋ねると、多くの方が「はい」と答えてくださいます。ところが、そこからもう一歩踏み込んで「では、具体的に何日分ありますか」と尋ねると、その場で数字を答えられる方は、実際にはごくわずかでした。
大規模な災害の被災地支援に携わる機会の中でも、似たような話を耳にすることがありました。支援先や周囲の方から「備えていたつもりだったが、実際にはほとんど用意できていなかった」という声を、又聞きという形でたびたび聞いていたのです。直接確認したわけではありませんが、研修の場で見えた傾向と、根っこは同じだったように思います。
「備えている」という感覚と、「何日分あるか」を数字で言えることは、思っている以上に別物なのかもしれません。この差を生んでいたのは、備えの量そのものというより、日頃から数字を意識できているかどうか、という一点だったように感じています。
後になって、行政の資料や心理学の研究を見直すと、この「数字で言えるかどうか」という差にはちゃんと理由があったのだと知りました。ここから、「何日分」という数字がなぜ行動を左右するのか、その仕組みを一緒に確認していきましょう。
1つ目|行政は、何日分を目安として紹介しているか
大きな災害では、人命救助を優先する対応が続く時間帯があり、生活物資の支援が一つひとつの家庭にまで行き渡るには、ある程度の時間差が生まれやすいと考えられています。
こうした背景から、内閣府防災情報のページでは、飲料水は一人あたり1日3リットルを目安に3日分、食料も一人あたり最低3日分を用意しておくことが紹介されています。また、非常に広い範囲に被害が及ぶ可能性のある大規模地震では、1週間以上の備蓄が望ましいという指摘もあると紹介されています。
「3日」「1週間」という数字は、絶対的な正解というより、行政が示している一つの目安だと捉えるとよさそうです。まずはこの目安を知っておくことが、自分たちの数字を考える出発点になります。
2つ目|必要な日数は、状況によって変わりうる
「何日分あれば足りるか」という数字は、一律に決まるものではなく、被害の範囲の広さや交通インフラの状況、住んでいる地域の条件などによって変わりうると考えられています。
被害が広域に及ぶこと・道路や物流の状況・住んでいる地域や住居の形態(マンションか戸建てか等)。これらの条件が重なるほど、目安として紹介されている日数よりも余裕を持たせておいた方が安心につながりやすいと考えられています。
3つ目|「うちは○日分」と言えることの意味
なぜ、「備えていますか」には即答できても、「何日分か」には言葉に詰まってしまうのでしょうか。研修でそう答えた方の多くは、「備えなきゃとは思っているけれど、実際に何をどれだけ揃えればいいのか、正直ピンときていない」と話してくださることが多くありました。この背景には、「自分たちなら何とかできる」という感覚(自己効力感と呼ばれる考え方)が、備えの行動そのものに関わっているという見方があります。
中国の研究者であるDong Qiu氏らが2023年に学術誌『Natural Hazards and Earth System Sciences』にまとめた報告では、この「自分たちなら対応できる」という感覚が強い家庭ほど、備えの行動を実際にとっている傾向が確認されたとされています(家族の状況によって傾向の強さには差があるとされています)。「何日分あるか」を具体的に把握できている状態は、この感覚をそのまま形にしたものだと考えることもできそうです。
つまり、漠然と「多めに」と考えているだけでは、この感覚にはつながりにくいのかもしれません。まずは「うちは何日分」という一つの数字を決めてみることから、この感覚は育っていくと考えられています。
4つ目|日常の「数字管理」が、そのまま備えの力になる
この考え方への向き合い方も、特別なことではありません。家計簿や体調管理と同じように、「なんとなく」より「具体的な数字」で把握しておく習慣が、そのまま備えの力につながっていると考えられています。
実際に何を、何日分そろえておくかは、家族の人数や暮らし方によって変わります。水や食料をはじめとした生活インフラの備蓄日数を具体的に整理した記事もあわせて参考にすると、自分たちの数字を決めやすくなります。詳しくは水・食料・燃料の備蓄日数の目安で紹介しています。
正直に言うと、研修で「何日分ありますか」と尋ねたときに、具体的な数字で即答できる方があまりに少なかったことには、何度も考えさせられました。被災地支援の現場で耳にした「備えていたつもりだった」という声とも、根っこは同じだったように思います。
完璧な数字を出す必要はありません。それよりも、「うちはだいたい○日分」と、まず一度言葉にしてみることを、大切にしたいと考えています。
今日からできる、3つの小さな一歩
すべてを一度に見直す必要はありません。まずは1つだけ試してみてください。
今日、家にある水や食料が「何日分」あるか、ざっくりでいいので数えてみる
「うちは○日分」という数字を、家族や自分の中で一度言葉にしてみる
目安に届いていない分だけ、次の買い物で少しずつ足していく
まずは今日、ひとつ試してみるところから。それだけで十分な一歩です。
とらまるくんと考えてみよう
あなたの家では、「何日分あるか」を、すぐに言葉にできるでしょうか。
数字にしてみるだけで、漠然とした安心感が、確かな安心感に変わるかもしれません。
備蓄の日数 よくある質問
実際には何日分を目安にすればいいですか?
行政の目安としては、飲料水・食料ともに最低3日分、非常に広い範囲に被害が及ぶ可能性のある大規模地震では1週間以上が望ましいという指摘もあります。ただしこれは一律の正解ではなく、暮らし方や住んでいる地域によって余裕を持たせた方が安心につながる場合もあると考えられています。
家族の人数が多い場合はどう考えればいいですか?
水・食料ともに「一人あたり」の目安をもとに、家族の人数分をかけ合わせて考えるとイメージしやすくなります。まずはおおまかな数字で構いませんので、一度計算してみることから始めてみてください。
数字を決めても、実際にそろえるのが大変そうです。どうすればいいですか?
一度にすべてをそろえる必要はありません。普段の買い物のときに少しずつ多めに買い、使った分を補充していく方法であれば、無理なく数字に近づけていけます。
職場やチームでも同じ考え方は使えますか?
「何日分あれば足りるか」という数字を決めておくという考え方自体は、家庭に限らず、職場やチームでの備えを考える際にも参考にしやすい視点だと感じています。
何日分あれば「もう十分」と言えますか?
明確な「これで完璧」という基準はありません。行政の目安を出発点にしつつ、自分たちの状況に合わせて少しずつ見直していく、というくらいの気持ちで向き合うのがちょうどよいと考えています。
この記事のポイント
- 「備えている」という感覚と、「何日分あるか」を言葉にできる状態は、実は別のもの。
- 行政は備蓄の目安として、最低3日分、広域被害の場合は1週間以上という考え方を紹介している。
- 「自分たちなら対応できる」という感覚が強い人ほど、備えの行動をとっている傾向があるという報告がある。
- 具体的な数字を決めることが、その感覚を育て、行動を後押ししてくれる。
- 家計や体調管理と同じように、「なんとなく」より「数字」で把握する習慣が、そのまま備えの力につながっていく。
まとめ
「備えている」という感覚は、それだけでは行動の後押しになりにくいのかもしれません。それよりも、「うちは何日分ある」と言葉にできる状態の方が、いざという時の落ち着きにつながる——研修や支援活動の現場で、何度もそう感じてきました。
完璧な数字を出す必要はありません。まずはざっくりでいいので、家にある水や食料を数えてみること。それを家族や自分の中で言葉にしてみること。その小さな一歩が、漠然とした安心感を、確かな安心感に変えてくれるのかもしれません。
日常を整えることが、そのまま非常時の安心につながる。
とらまる
一緒に学ぶ仲間
白いしっぽの先がチャームポイントの、好奇心いっぱいのトラの子。わからないことは素直に「どうして?」と聞くのが得意で、みんなの「聞きたいけど聞けない」を代わりに聞いてくれます。
ふくぼう先生からもらった「まなびのスカーフ」が自慢です。
▶ とらまるのプロフィールはこちら ›関連記事
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いただいたご質問は、今後の記事づくりの参考にさせていただきます
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現場経験や実践例を交えながら、より実践的に学べる設計図を少しずつ育てています。
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