「もう少し様子を見よう」——その数秒が、間に合わなくなることもあります
いざというときの行動知識
「もう少し様子を見よう」——その数秒が、間に合わなくなることもあります
いざというときの行動知識
この記事は、本質の防災4STEPの「STEP4|行動を決める」で心構えを整えたあと、実際の応急手当の基本を扱う記事です。応急手当の基本、やけどの手当、胸骨圧迫、骨折・捻挫に続く、いざというときの行動知識ゾーンの5本目として、子どもの誤飲が起きたときにまず確認すべきことを整理していきます。
「大したものじゃなさそうだし、少し様子を見よう」——その数秒の判断が、あとで悔やまれることもあるかもしれません。
子どもの誤飲は、何を飲み込んだか・窒息のサインがあるかどうかで、とるべき行動がまったく変わるといわれています。今日は、まず確認すべきことと、迷わず行動すべき場面の見極め方を確認していきましょう。
30秒でわかるまとめ
このページが目指すこと
この記事は、誤飲を家庭だけで治療・判断できるようになるためのものではありません。「まず何を確認し、どう動けばいいか」という基本の考え方と、緊急性を見極める目安を知っておくことが目標です。中毒110番など専門機関への相談窓口もあわせて紹介します。
まずは、誤飲・誤嚥・窒息という似た言葉の違いから確認していきましょう。
この記事でわかること
- 誤飲・誤嚥・窒息、それぞれの違い
- 窒息のサインが出たとき、今すぐすべきこと
- 窒息のサインがない場合の、対応の基本方針
- 特に注意が必要なもの(ボタン電池・洗剤など)
- 中毒110番の使い方・連絡先
- 「とりあえず吐かせる」という対応が、今も信じられている理由
「何か飲み込んじゃったら、とりあえず吐かせればいいの?」
実は、無理に吐かせることは、今はすすめられていない場合が多いんです。
それより先に確認しなければいけないことがあります。まずはそこから見ていきましょう。
「とりあえず吐かせる」——とっさにそうしてしまったことはありませんか
子どもが何かを口に入れているのに気づいて、慌てて指を喉に入れて吐かせようとした——そんな経験がある方は、少なくないのではないでしょうか。
ただ、無理に吐かせる対応は、吐いたものが気管に入ってしまう危険があるとされ、現在は多くの専門機関がすすめていません。それよりも先に確認すべきことがあります。
窒息のサインがあるかどうかを、まず一緒に確認していきましょう。
窒息のサインが出たら、ためらう時間はない
長年の消防活動や応急手当講習の中で、子どもの窒息については特に、繰り返し伝えてきたことがあります。
それは、窒息のサイン——声が出せない、顔色が悪くなる、喉を両手で押さえるような仕草など——が見られたら、ためらわず背部叩打法を行うと同時に、119番へ通報するべきだということです。
赤ちゃんや子どもが窒息すると、心停止につながる可能性も高く、時間的な猶予がとても少ないと感じてきました。「少し様子を見てから」という余裕は、この場面にはありません。迷わず119番通報が鉄則——講習のたびに、そう伝えるようにしてきました。
ここから、窒息のサインへの向き合い方と、サインがない場合の対応の基本を確認し、最後に、こうした対応が誤解されやすい理由にも軽く触れていきます。
1つ目|「誤飲」「誤嚥」「窒息」は、それぞれ違う言葉
東京消防庁の資料によると、管内だけでも5歳以下の子どもが窒息や誤飲で救急搬送されるケースは年間約1,000件にのぼり、特に生後7〜9か月ごろの乳児が最も多いとされています。発生場所の9割以上が自宅内で、決して珍しい事故ではありません。
誤飲・誤嚥・窒息は似た言葉ですが、それぞれ意味が違うといわれています。誤飲は、食べ物ではないものを飲み込んで胃に入ってしまうこと。誤嚥は、食べ物や異物が誤って気管(空気の通り道)に入ってしまうことを指すとされています。そして窒息は、気道がふさがれて呼吸ができなくなった状態のことです。誤嚥がきっかけで窒息に至ることもあるとされています。
- 誤飲=食べ物以外のものを、飲み込んでしまうこと(胃へ)
- 誤嚥=食べ物や異物が、誤って気管に入ってしまうこと
- 窒息=気道がふさがり、呼吸ができなくなった状態
この中で、命に関わる緊急性が最も高いのが窒息です。まずは、窒息のサインが出ているかどうかの見極めから確認していきましょう。
2つ目|窒息のサインが見られたら、ためらわず119番通報してください
窒息のサイン(チョークサイン)としては、声が出せない、咳ができない、顔色が青白くなる、喉を両手で押さえるような仕草をする、といった様子が挙げられます。政府広報オンラインによると、乳児には背部叩打法(うつぶせにして背中を強く5〜6回叩く)や胸部圧迫法、1歳以上の子どもには腹部突き上げ法(ハイムリック法)といった対応がとられています。
- ためらわず背部叩打法を行ってください
- それと同時に、迷わず119番へ通報してください
- 年齢によって手技の詳細は異なるとされているため、詳しくは公的機関の救命講習で確認してください
窒息は心停止につながる可能性が高く、時間的な猶予がほとんどありません。この場面に限っては、「様子を見る」という選択肢はないと考えてください。判断に迷う時間そのものが、危険につながることがあります。
3つ目|無理に吐かせず、まず何を・どれくらい飲み込んだかを確認する
窒息のサインがなく、呼吸や意識がいつも通りの場合は、慌てて吐かせようとせず、何を・どれくらいの量・いつ飲み込んだかを確認することが基本とされています。日本中毒情報センターによると、無理に吐かせることは吐いたものが気管に入る「誤嚥」のおそれがあり、すすめられていません。特に灯油・ガソリンなどの石油製品や、酸性・アルカリ性の強い洗剤類は、吐かせるとかえって食道や気管を傷つける危険があるとされています。
日本小児科学会の資料によると、紙や石けん・台所用洗剤(弱酸性〜中性)などは少量であれば水分をとらせて様子を見てよいとされる一方、ボタン電池・複数の磁石・灯油やガソリン・釘や画鋲などの鋭利なものは、様子を見ずにすぐ受診することがすすめられています。特にボタン電池は、体内で電流が流れ続けることで周囲の組織を化学的に傷つけるとされ(日本中毒情報センター)、気づかれないまま数週間放置されて重症化した事例も報告されています。マニキュア除光液や塩素系漂白剤などは「吐かせずに、すぐに受診する」ことが明記されています。
迷ったときは、日本中毒情報センターの「中毒110番」に相談することがすすめられています。大阪中毒110番(072-727-2499)は365日24時間、つくば中毒110番(029-852-9999)は9時から21時の受付で、一般の方の相談は無料です。連絡の際は、飲み込んだものの商品名・量・時刻がわかると、より正確な対応につながるとされています。
- ボタン電池・コイン形リチウム電池
- 複数個の磁石
- 灯油・ガソリンなどの石油製品
- マニキュア・除光液、塩素系漂白剤(吐かせずに受診)
- 釘・画鋲などの鋭利なもの
4つ目|昔ながらの対応は、今も根強く残りやすい
「何か飲み込んだら、まず吐かせる」という対応は、昔ながらの知恵として今も根強く残っているといわれています。心理学者のStephan Lewandowsky氏らが2012年にまとめた分析(Psychological Science in the Public Interest誌)では、一度信じた情報は、後から誤りだとわかっても訂正されにくく、記憶に残り続ける傾向があるとされています。
特に「とっさの場面でどう動くか」という知識は、一度覚えると更新されにくい性質があると考えられます。だからこそ、「まず吐かせる」ではなく「窒息のサインの有無をまず確認する」という基本を、あらためて知っておくことが役立つはずです。
古い知識を持っていたこと自体を気にする必要はありません。大切なのは、「とりあえず吐かせる」を「まず窒息のサインを確認し、なければ何を飲んだかを確認する」にアップデートすることです。
この記事で参考にした情報
本文中で紹介した内容は、以下の公的機関・研究にもとづいています。最新の内容は、各リンク先で随時更新されています。
- 消費者庁食品による子どもの窒息・誤嚥事故に注意! 記事を見る ›
- こども家庭庁窒息・誤飲事故|こどもの安全ハンドブック 記事を見る ›
- 政府広報オンライン赤ちゃんやこどもを誤飲・窒息事故から守る! 記事を見る ›
- 日本中毒情報センター中毒事故が起こったら(家庭でできること) 記事を見る ›
- 日本中毒情報センターボタン電池による小児の事故 記事を見る ›
- 日本中毒情報センター中毒110番・電話サービス案内 記事を見る ›
- 日本小児科学会子どもが誤飲した時の応急処置(PDF) 記事を見る ›
- 日本医師会白クマ先生の子ども診療所|誤飲 記事を見る ›
- 東京消防庁乳幼児の窒息や誤飲に注意! 記事を見る ›
- 学術研究(参考)Lewandowsky et al. (2012) Misinformation and Its Correction 論文を見る ›
実際の応急手当の手技や搬送の判断は、消防署や日本赤十字社の救命講習・かかりつけの医療機関でも確認しておくと安心です。
「誤飲かもしれない」と気づいた瞬間は、誰でも慌ててしまうものです。だからこそ、まず窒息のサインがあるかどうかを確認する——この一手順だけを覚えておいてほしいと思っています。
サインがあれば迷わず119番、なければ落ち着いて中毒110番に相談する。それだけで、とっさの判断がぐっとしやすくなります。
今日からできる、3つの小さな一歩
すべてを一度に覚え直す必要はありません。まずは1つだけ試してみてください。
中毒110番の電話番号(大阪:072-727-2499)を、冷蔵庫など家族の目につく場所に貼っておく
医薬品・洗剤・電池を、子どもの手が届かない場所にまとめて置き直しておく
家族で「窒息のサインが出たら、背部叩打法+119番」という流れを一度確認しておく
まずは今日、ひとつ確認してみるところから。それだけで十分な一歩です。
とらまるくんと考えてみよう
そうなんです。窒息のサインがあるかどうかで、とるべき行動がまったく変わります。「とりあえず吐かせる」ではなく「まず確認する」——その順番を、ぜひ覚えておいてください。
子どもの誤飲 よくある質問
何を飲み込んだか分からないときは、どうすればいいですか?
窒息のサインがなければ、まずは落ち着いて、周囲に落ちているもの・減っているものがないかを確認してください。わからない場合も、中毒110番に相談することがすすめられています。
吐かせた方がいい場合はありますか?
基本的には無理に吐かせることはすすめられていません。ただし、タバコのように対応が分かれる場合もあり、情報源によって見解が異なることもあります。迷ったときは中毒110番や医療機関に相談することが確実です。
ボタン電池を飲み込んだかもしれないときは、どうすればいいですか?
ボタン電池は体内で組織を傷つけるおそれがあり、様子を見ずにすぐ受診することがすすめられています(日本中毒情報センター)。気づかないまま時間が経つと重症化することもあるとされています。
窒息のサインが出たら、まず何をすればいいですか?
ためらわず背部叩打法を行うと同時に、119番へ通報してください。年齢によって手技の詳細は異なるとされているため、公的機関の救命講習で一度確認しておくと安心です。
中毒110番は、どんなときに使えばいいですか?
窒息のサインがなく、何を飲み込んだかを確認できた場合の相談窓口として使えます。大阪(072-727-2499)は24時間、つくば(029-852-9999)は9時〜21時の受付で、一般の方は無料で相談できます。
この記事のポイント
- 誤飲・誤嚥・窒息は、それぞれ意味が違うとされている。
- 窒息のサインが見られたら、ためらわず背部叩打法+119番通報が基本とされている。
- 窒息のサインがなければ、無理に吐かせず何を飲んだかを確認することがすすめられている。
- ボタン電池・灯油などは、様子を見ずすぐに受診することがすすめられている。
- 迷ったときは中毒110番に相談できる。
まとめ
子どもの誤飲は、窒息のサインがあるかどうかで、とるべき行動がまったく変わるといわれています。サインがあれば、ためらわず背部叩打法と119番通報を。サインがなければ、無理に吐かせず、何を飲み込んだかを確認して中毒110番や医療機関に相談することがすすめられています。
「とりあえず吐かせる」という昔ながらの対応から、「まず確認する」という基本にアップデートしておくこと。その小さな知識の更新が、いざというときに家族を守る力になっていくのだと感じています。
日常を整えることが、そのまま非常時の安心につながる。
とらまる
一緒に学ぶ仲間
白いしっぽの先がチャームポイントの、好奇心いっぱいのトラの子。わからないことは素直に「どうして?」と聞くのが得意で、みんなの「聞きたいけど聞けない」を代わりに聞いてくれます。
ふくぼう先生からもらった「まなびのスカーフ」が自慢です。
▶ とらまるのプロフィールはこちら ›関連記事
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