「気をつけて食べてね」——それだけでは、防ぎきれないことがあります
いざというときの行動知識
「気をつけて食べてね」——それだけでは、防ぎきれないことがあります
いざというときの行動知識
この記事は、本質の防災4STEPの「STEP4|行動を決める」で心構えを整えたあと、実際の応急手当の基本を扱う記事です。応急手当の基本、やけどの手当、胸骨圧迫、骨折・捻挫、子どもの誤飲に続く、いざというときの行動知識ゾーンの6本目として、窒息を防ぐための工夫と、いざという時の対応の順番を、より詳しく整理していきます。
「気をつけて食べてね」——そう声をかけているつもりでも、それだけでは防ぎきれないことがあるかもしれません。
窒息は、小さなお子さんだけの心配ではありません。実は高齢の方にもとても身近な事故だといわれています。今日は、窒息を防ぐための工夫と、いざという時の対応の順番を確認していきましょう。
30秒でわかるまとめ
このページが目指すこと
この記事は、窒息を家庭だけで完全に防げるようになるためのものではありません。「どんな工夫で防ぎやすくなるか」「いざという時、どの順番で動けばいいか」という基本の考え方を知っておくことが目標です。専門家の判断が必要な場面もあわせて確認していきます。
まずは、窒息を招きやすい食品と、防ぐための工夫から見ていきましょう。
この記事でわかること
- 窒息を招きやすい食品と、年齢別のリスク
- 強い咳の有無で変わる、対応の判断のしかた
- 背部叩打法・腹部突き上げ法の正しい順番と禁忌
- 応急手当をしたあと、受診が必要かどうかの目安
- 「気をつけていたのに」が起きてしまう心の仕組み
「窒息って、小さい赤ちゃんだけの心配じゃないの?」
実は、5歳以下の子どもだけでなく、高齢の方にもとても身近な事故だといわれているんです。
どんな工夫で防ぎやすくなるのか、まずはそこから見ていきましょう。
「気をつけて食べてね」——その一言だけで、防げていると思っていませんか
子どもや高齢のご家族に「気をつけて食べてね」「よく噛んでね」と声をかける——それ自体は、決して間違ったことではありません。ただ、声かけだけでは防ぎきれない場面があるのも事実です。
窒息を防ぐには、食品の切り方や与え方、食べる時の環境といった具体的な工夫が必要だとされています。それでも万が一起きてしまった時のために、対応の順番も知っておきたいところです。
まず、窒息を招きやすい食品と、防ぐための工夫を確認していきましょう。
「大丈夫、大丈夫」——そう思っていた数秒後のことでした
子どもがまだ小さかった頃、一緒にチョコチップパンを食べていた時のことです。ふと見ると、苦しそうな顔をして、手や指をしきりに口へ運ぶような仕草をしていました。
窒息のサイン(チョークサイン)に似た様子だと判断し、すぐに背部叩打法で背中を数回叩きました。すると、ポロッとパンのかけらが出てきたのです。
腹部突き上げ法よりも、背部叩打法の方が動作も初動もシンプルで、効果も感じやすいと個人的には思っています。まず背中を叩く——それだけを体に入れておくだけでも、いざという時に動けるはずです。応急手当講習でも、いつもこの話をお伝えしています。
パンが取れた直後、子どもはすぐに泣き出しました。泣いているということは、気道に空気が通っている証拠でもあります。それを確認できて、心から安心したのを覚えています。
ここから、窒息を防ぐための工夫と、いざという時の対応の順番を確認し、最後に「気をつけていたのに」が起きてしまう心の仕組みにも軽く触れていきます。
1つ目|窒息のリスクは、子どもと高齢の方でそれぞれ特徴がある
消費者庁の資料によると、豆やナッツ類などの硬くてかみ砕く必要のある食品や、ミニトマトやぶどうなどの球状の食品は、窒息のリスクが高いとされています。窒息事故の統計では5歳以下の子どもが9割を占めており、5歳以下の子どもには硬い豆やナッツ類を食べさせないことがすすめられています。球状の食品は、4等分にする・やわらかく調理するなどして、よく噛んで食べさせることがすすめられています。
一方、高齢の方については、お餅による窒息が特に知られています。消費者庁の資料によると、65歳以上の高齢者でお餅による窒息で亡くなる方は年間3,500人以上、80歳以上に限っても2,500人以上にのぼるとされ、その死亡事故の43%が、お餅を食べる機会の多い1月に集中しているとのことです。加齢に伴って噛む力・飲み込む力が弱くなることが背景にあるとされています。
- 食品は小さく切る、またはやわらかく調理する
- 一口の量を、無理なく食べられる量にする
- お餅などは、お茶や汁物で喉を潤してから食べる(ただし、よく噛まずに流し込むのは危険とされています)
- 食べている間は、周りの人が様子を見守る
- 物を口に入れたまま、走ったり・笑ったり・泣いたり・声を出したりさせない
2つ目|強い咳ができるかどうかで、対応が変わります
消防庁の資料によると、強い咳ができる間は、咳を続けさせて注意深く見守ることがすすめられています。無理に叩いたり押したりせず、咳によって異物が出てくるのを待つ段階です。
一方で、咳が弱くなった場合や、声が出せない・咳ができない場合は、窒息としての迅速な対応が必要だとされています。
- ためらわず背部叩打法を行ってください
- それと同時に、迷わず119番へ通報してください
- 周りに人がいれば、119番通報と背部叩打法を分担して同時に進めてください
「もう少し様子を見てから」という判断は、この場面には向きません。咳が弱まった・できなくなったと感じたら、その時点で行動を始めてください。判断に迷う時間そのものが、危険につながることがあります。
3つ目|背部叩打法→腹部突き上げ法の順番と、行ってはいけない場合
消防庁の資料によると、窒息の対応は、まず背部叩打法を実施し、効果がなければ腹部突き上げ法を行うという順番が基本とされています。背部叩打法は、うつぶせに近い姿勢にして背中の間を強く叩く方法です。
腹部突き上げ法(ハイムリック法)は、上腹部(へそとみぞおちの中間あたり)を斜め上方に圧迫して異物を押し出す方法です。ただし、東京消防庁の資料によると、反応のない人・妊娠していると思われる女性・乳児には、この方法を行いません。内臓を傷つけるおそれがあるとされているためです。
- 反応がない(意識がない)人
- 妊娠していると思われる女性
- 乳児
これらの場合は、背部叩打法や、周囲への協力要請・119番通報を優先してください。
日本医師会の資料によると、腹部突き上げ法を実施した場合は、窒息が解除されたあとであっても、内臓を傷めている可能性があるため、救急隊にその旨を伝えるか、すみやかに医師の診察を受けさせることがすすめられています。「取れたから、もう大丈夫」と自己判断で済ませないことが大切です。
4つ目|窒息のリスクは、つい他人事に感じてしまいやすい
「うちの子はもう大きいから大丈夫」「うちの親はまだ元気だから大丈夫」——窒息の予防について、そう感じたことはないでしょうか。心理学者のワインスタイン氏が1980年にまとめた研究(Journal of Personality and Social Psychology誌)では、人は自分にとって都合の悪い出来事は、他人より自分には起こりにくいと感じやすい傾向がある(楽観性バイアス)とされています。
窒息事故の統計を見聞きしても「うちは大丈夫」と感じてしまうのは、決して珍しいことではないのかもしれません。だからこそ、「まさか」ではなく「身近にある事故」として、あらかじめ工夫や対応の順番を知っておくことが役立つはずです。
「うちは大丈夫」と感じてしまうこと自体を、気にする必要はありません。大切なのは、その感覚があることを知ったうえで、切り方や見守り方といった小さな工夫を、今日から一つ試してみることです。
この記事で参考にした情報
本文中で紹介した内容は、以下の公的機関・研究にもとづいています。最新の内容は、各リンク先で随時更新されています。
- 消費者庁年末年始、餅による窒息事故に御注意ください! 記事を見る ›
- 消費者庁食品による子どもの窒息・誤嚥事故に注意! 記事を見る ›
- 消防庁気道異物の除去(反応がある場合) 記事を見る ›
- 東京消防庁腹部突き上げ法|電子学習室 記事を見る ›
- 日本医師会気道異物除去の手順|救急蘇生法 記事を見る ›
- 学術研究(参考)Weinstein, N.D. (1980) Unrealistic optimism about future life events. Journal of Personality and Social Psychology, 39(5), 806-820. 論文を見る ›
実際の応急手当の手技や搬送の判断は、消防署や日本赤十字社の救命講習・かかりつけの医療機関でも確認しておくと安心です。
窒息は、一瞬で命に関わる事故になりうるものです。だからこそ、「防ぐための工夫」と「いざという時の対応の順番」の両方を、あわせて知っておいてほしいと思っています。
強い咳ができれば見守る、弱まったらためらわず背部叩打法と119番。それだけを覚えておくだけでも、とっさの判断がしやすくなります。
今日からできる、3つの小さな一歩
すべてを一度に覚え直す必要はありません。まずは1つだけ試してみてください。
お餅やミニトマト、ぶどうなど、家にある「窒息しやすい食品」を小さく切る習慣をつけてみる
食事中は「歩き食べ」「笑いながら食べる」をさせない工夫を、家族で確認してみる
家族で「強い咳があれば見守る、弱まったら背部叩打法+119番」という流れを一度確認しておく
まずは今日、ひとつ確認してみるところから。それだけで十分な一歩です。
とらまるくんと考えてみよう
そうなんです。窒息は子どもだけでなく、高齢のご家族にも起こりやすい事故です。「小さく切る」という小さな工夫と、「弱まったらすぐ動く」という対応の順番、両方をぜひ覚えておいてください。
窒息の予防と対応 よくある質問
窒息のサインが出たら、まず何をすればいいですか?
強い咳ができる間は、咳を続けさせて見守ってください。咳が弱まった・できない場合は、ためらわず背部叩打法を行うと同時に、迷わず119番へ通報してください。
背部叩打法と腹部突き上げ法、どちらを先にすればいいですか?
まず背部叩打法を行い、それでも効果がなければ腹部突き上げ法に切り替えることが基本とされています。ただし、妊娠していると思われる方・乳児・意識のない方には腹部突き上げ法を行いません。
腹部突き上げ法を行うと、なぜ受診が必要なのですか?
腹部突き上げ法は、内臓を傷つけるおそれがあるとされています。窒息が解除されたあとであっても、実施した場合は救急隊にその旨を伝えるか、すみやかに医師の診察を受けることがすすめられています。
高齢者の窒息は、どんな時に特に注意が必要ですか?
お餅を食べる機会が多い1月は、特に注意が必要とされています。加齢に伴って噛む力・飲み込む力が弱くなるため、小さく切る、お茶などで喉を潤してから食べる、周りが見守るといった工夫がすすめられています。
咳ができている場合も、すぐに応急手当をした方がいいですか?
強い咳ができている間は、無理に叩いたり押したりせず、咳を続けさせて注意深く見守ることがすすめられています。咳の勢いが弱まったり、咳ができなくなったりした時点で、応急手当に切り替えてください。
この記事のポイント
- 窒息は子どもだけでなく、高齢の方にも起こりやすい身近な事故とされている。
- 強い咳ができる間は見守り、弱まったらためらわず背部叩打法+119番通報が基本とされている。
- 効果がなければ腹部突き上げ法へ。ただし妊娠している方・乳児・意識のない方には行わない。
- 腹部突き上げ法を行った場合は、解除後も必ず受診することがすすめられている。
- 「うちは大丈夫」と感じやすいのは自然な心の働きだが、小さな工夫の積み重ねが予防につながる。
まとめ
窒息は、小さなお子さんだけでなく、高齢のご家族にもとても身近な事故だといわれています。食品を小さく切る、見守る、口に物を入れたまま歩いたり笑ったりさせないといった小さな工夫が、予防につながるとされています。
それでも万が一の時は、強い咳があれば見守り、弱まったらためらわず背部叩打法と119番通報を。「気をつけて食べてね」の一言に、具体的な工夫と対応の順番を重ねておくこと。それが、いざという時に家族を守る力になっていくのだと感じています。
日常を整えることが、そのまま非常時の安心につながる。
とらまる
一緒に学ぶ仲間
白いしっぽの先がチャームポイントの、好奇心いっぱいのトラの子。わからないことは素直に「どうして?」と聞くのが得意で、みんなの「聞きたいけど聞けない」を代わりに聞いてくれます。
ふくぼう先生からもらった「まなびのスカーフ」が自慢です。
▶ とらまるのプロフィールはこちら ›関連記事
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いただいたご質問は、今後の記事づくりの参考にさせていただきます
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