家族と自宅で過ごすために、知っておきたいこと
STEP2|家の設計図
家族と自宅で過ごすために、知っておきたいこと
大きな揺れの翌朝、いつものキッチンでごはんを炊く。家族全員が顔をそろえて、いつもの食卓に座る——その「ふだんどおり」を手放さずにいられる家を、あなたはすでに持っているかもしれません。
在宅避難という選択肢は、「備えた人だけが手に入れる特別なもの」ではなく、「自分の家の状態を知っている人が、自然と選べるもの」です。何が必要かを知る前に、まず今の家がどういう状態かを知っておきましょう。
30秒でわかるまとめ
このページが目指すこと
この記事のゴールは、「避難所に行かずに済む家にすること」ではありません。
家族と一緒に、自宅で笑顔で過ごせること。それがゴールです。そのために、「在宅避難が選べる家の条件」と「避難所の実態」を知っておくことが、選択肢を広げる一歩になります。知識は不安を増やすためではなく、安心して選ぶために使うものです。
この記事でわかること
- 在宅避難が「選べる家」の2つの条件
- 避難所の実態——食料・プライバシー・衛生・運営の仕組み
- 自治体が在宅避難を推奨している理由
- 在宅避難が難しい場合の現実的な選択肢
- 今日から始められる「在宅避難できる家」の整え方
- 2026年の防災庁発足で変わること・変わらないこと
「避難所に行けば、なんとかなる?」
実はその認識、多くの方が持っているんですが、避難所の実態は少し違います。家に住める状態なら、自宅にいる方がずっと安全で快適なことがほとんどです。
避難所は「住む場所を失った人のための場所」が原則。食料も物資も限りがあり、プライバシーも衛生面も課題が多い。だからこそ、自宅で過ごせる家を整えておくことが、家族全員の安心につながります。
「とりあえず避難所へ」が、最善とは限らない
「大きな地震が来たら避難所に行く」——そう決めている方は少なくありません。でも考えてみてください。もし家が無事で、水も食料もある程度あるなら、見知らぬ大勢の人と雑魚寝をする場所に移動することが、本当に「安全」でしょうか。
家族のいつもの布団で眠れる。慣れた台所で、子どもの好きなごはんを作れる。トイレもお風呂も、プライバシーが守られた空間にある——そのどれもが、大きな揺れの後でも守られるとしたら。
在宅避難は、「特別な覚悟が必要な選択」ではなく、「日常の延長で選べる、家族を守る方法」です。
そのために必要なのは、二つのことを知っておくことです。「自分の家が在宅避難できる状態かどうか」と、「避難所が実際にどういう場所か」——この二つを知った上で選ぶことが、家族のための最善の判断につながります。
自治体の担当者が言った、「住める状態なら、家にいてください」
防災に関わる講話の中で、行政の現場に携わる担当者からこんな言葉を聞いたことがあります。「住める状態なら、避難所より自宅の方が安全ですよ」——そう話してくれたのは、地域の防災計画に関わる自治体職員でした。
これは、住民に対して「避難しなくていい」という意味ではありません。「避難所に来ることが、必ずしも安全とは言えない現実がある」ということを、行政の内側で働く人間が率直に伝えてくれた言葉です。
内閣府の「避難所における良好な生活環境の確保に向けた取組指針」(2021年改定)では、避難所の過密状態・プライバシーの欠如・衛生管理の困難さが継続的な課題として明示されています。また、過去の大規模災害の検証報告でも、避難所での食料・物資の不足、トイレ環境の劣悪さ、犯罪・トラブルの発生が繰り返し指摘されてきました。
自治体が在宅避難を推奨する理由は明確です。一つは、避難所が本来「住まいを失った人」のために機能すべき場所であること。もう一つは、避難者が増えすぎると、本当に助けが必要な方へのケアが行き届かなくなることです。
「避難所に行けば安心」ではなく、「住める家を守ることが、家族を守ること」——その認識が、在宅避難という選択の出発点になります。
「住める家」かどうか——判断する2つの軸
在宅避難ができるかどうかは、シンプルに「その家の中で生活できるかどうか」です。難しい判断基準はなく、確認するのは2点だけです。
壁にひびが入った、タイルが落ちた、といった程度であれば、多くの場合は住み続けることができます。判断が難しい場合は、市区町村が実施する「被災建築物応急危険度判定」の結果(赤・黄・緑の紙)が目安になります。
赤(危険)が貼られた場合は立入禁止が原則。黄(要注意)は状況を見ながら慎重に判断。緑(調査済み)であれば在宅避難の選択肢が現実的になります。この判定は地震後に行政が無償で実施しますが、混雑により数日かかることもあります。
家の耐震状態を事前に把握しておくことが、揺れた後の判断を早めます。わが家の築年数・耐震基準については、STEP2の関連記事もあわせてご確認ください。
水道・ガス・電気のすべてが止まっても、備蓄があれば在宅避難は可能です。ただし、トイレが使えない状態が続く場合は、衛生面でのリスクが上がります。
目安として、飲料水3日分(1人1日3リットル)+簡易トイレ(最低7日分)があれば、ライフラインが止まった状態でも在宅生活の継続が現実的になります。このあたりの詳細は、STEP3の備蓄日数の記事で詳しく解説しています。
避難所は「誰かが用意してくれる場所」ではない
講話の場で「避難所ってどんなところだと思いますか?」と聞くと、「食べ物や寝るところが用意されている」「行政の人が管理してくれる」——そういったイメージを持つ方が多くいます。実際はかなり異なります。
避難所の運営は、基本的に避難してきた住民が主体となって行います。行政の職員が数名いることもありますが、その人たちも被災者です。食料の配給・物資の管理・清掃・トイレの維持——これらは、避難してきた人たちが協力して担う形が原則です。
「誰かがやってくれる」という前提では動きません。自分も含め、全員が担い手です。
「食べ物が豊富に用意されている」というイメージとは大きく異なります。多くの自治体の備蓄計画は最初の3日分を目安としており、内容はアルファ米・水・ビスケットなどが中心です。
しかも、避難所に何人来るかは事前に分からないため、人数が多い避難所と少ない避難所で物資の偏りが生じることがあります。過去の大規模災害でも、物資の配分格差は繰り返し課題として取り上げられてきました。自衛隊や他自治体からの物資支援は、大規模災害ほど到着が遅れる傾向にあります。
避難所生活で多くの方が直面するのが、プライバシーの問題です。体育館などの広い空間に大勢が集まり、仕切りもなく雑魚寝する状態が続くことがあります。授乳・着替え・睡眠——日常では当たり前にプライバシーが守られていることが、まったく守られない環境になります。
トイレも深刻な問題です。不特定多数の人が使い続けることで、発災直後から衛生状態が悪化しやすく、感染症のリスクも上がります。女性・子ども・高齢者への負担は特に大きくなります。
また、見知らぬ多数の人が集まる空間では、トラブルや犯罪が発生することもあります。自分が備えてきた食料を求められたり、分配を強く促されたりといった場面も、現実として起きています。家族のために用意したものを守ることが難しくなる状況は、精神的なストレスにもつながります。
2026年11月、日本に防災庁が発足する予定です。これにより、避難所の環境整備が加速することが期待されています。海外では標準とされるTKB(トイレ・キッチン・ベッド)の考え方——個室トイレ、温かい食事、プライバシーが守られた就寝環境——を避難所でも整えていく方向性が打ち出されています。
ただし、整備が全国に行き届くまでにはまだ時間がかかります。今この瞬間、わが家が在宅避難できる状態を整えておくことの価値は、変わりません。
家が無事でも、「自宅の外」を選ぶ場合
家が倒壊・半壊していれば、在宅避難は選べません。ただし、その場合でも「避難所一択」ではありません。状況に応じた選択肢を知っておくことで、家族のストレスを大幅に減らせます。
家の構造が心配な場合でも、庭にテントを張って家族で過ごす選択肢があります。見知らぬ人と混在する避難所に比べ、プライバシーが守られ、精神的なストレスは大幅に下がります。食事も、備えていたものを家族だけで囲めます。
車中避難を選ぶ場合は、エコノミークラス症候群(静脈血栓塞栓症)のリスクに注意が必要です。こまめに体を動かすこと、足首を回すこと、十分な水分補給を意識してください。
安全な地域に住む親族や知人の家に身を寄せる選択肢も有効です。事前に「いざというときはお互い様で」という関係を作っておくことが、こういう場面で生きてきます。遠くの避難所より、顔を知っている人のそばにいる方が、特に子どもの安心感は格段に違います。
「在宅避難」という言葉は、なんとなく「我慢して家にいる」というニュアンスで受け取られることがあります。でも、そうではないと感じています。
家族全員がいつもの空間で、いつもの顔ぶれで過ごせること——それ自体が、心身の回復力を支える最大の環境です。知らない場所、知らない人の中で眠る夜と、慣れた自分の布団で眠る夜では、子どもの心の安定が変わります。大人も同じです。
在宅避難は、備えた人が「選べる」ものです。その選択肢を持つために、今日できることを一つずつ積み上げていきましょう。
在宅避難を「選べる家」に整える3つの一歩
すべてを一度に整える必要はありません。今日から始められることが、必ず一つあります。
わが家の築年数と耐震基準を確認する。登記簿・売買契約書・管理会社への問い合わせで調べられます
飲料水を「いつも少し多めに」家に置く習慣をつくる。2リットルのペットボトルを1本多く買うことから始めてみる
簡易トイレを1セット用意する。1,000〜2,000円で購入でき、使い慣れた自宅にあるだけで安心が変わります
「全部揃えてから」と思うと動けなくなります。一つだけでも、今日動いてみてください。
とらまるくんと考えてみよう
在宅避難という言葉は、難しく聞こえるかもしれません。でも本質はシンプルです。「家族と自宅で、いつもどおりに過ごせる日常を守ること」——それだけです。
そのために必要なのは、特別な準備より「自分の家を知っていること」と「日常の延長で少しずつ整えておくこと」です。今日の一歩が、家族の笑顔を守る一歩になります。
在宅避難 よくある質問
家に少しひびが入っていても、在宅避難できますか?
ひびの程度によりますが、壁の表面にヘアクラック(細い線状のひび)が入った程度であれば、構造的な問題がないことが多いです。地震後に自治体が実施する「被災建築物応急危険度判定」で「緑(調査済み)」の判定が出れば、在宅生活を続けられます。判定が出るまで数日かかることもあるため、その間は自分の目で「扉が開かない」「柱が傾いている」などの変化がないか確認することが大切です。
マンションに住んでいます。戸建てと何か違いますか?
マンションで特に注意が必要なのは上下水道の問題です。建物自体は無事でも、配管の損傷や停電による受水槽のポンプ停止で、水が使えなくなることがあります。エレベーターが止まれば高層階への移動も困難になります。マンションの管理組合や管理会社が作成している「防災マニュアル」を事前に確認しておくと、判断の助けになります。
子どもが小さく、避難所に行った方が安全では?と思うことがあります
お気持ちはよく分かります。ただ、避難所の環境は小さなお子さんにとって負担が大きい面もあります。知らない大勢の人の中での雑魚寝、慣れない食事、衛生環境の悪化——これらは子どもの心身に影響することがあります。住める家があるなら、自宅で家族全員が揃って過ごす方が、子どもの安心感は格段に大きくなることが多いです。「避難所に行った方が安全」という判断が必要な状況は、家が住めない状態になったときです。
近所に避難所があるのに、使わないのは申し訳ない気がします
その感覚は優しい気持ちから来るものだと思います。ただ、自治体の立場から見ると「住める家がある人に避難所を使ってほしくない」というのが正直なところです。本当に住む場所を失った方や、一人で暮らしていて安否が心配な高齢者の方など、避難所を必要としている方のために、スペースと物資を確保したいのです。住める家に家族がいるなら、在宅を選ぶことが地域の助け合いにもなります。
この記事のポイント
- 在宅避難の条件はシンプル——家が倒壊・半壊していないこと、ライフラインが一部でも使えること(または備蓄でカバーできること)。
- 避難所は「誰かが用意してくれる場所」ではなく、避難してきた住民全員で運営する場所。食料は原則3日分、プライバシー・衛生・安全の課題が多い。
- 自治体の現場でも「住める状態なら在宅を」という考え方が共通認識になっている。
- 在宅避難が難しい場合は、庭・車中・親族宅など、避難所以外の選択肢もある。
- 在宅避難を「選べる家」に整えるのは特別な準備ではない——家の状態を知り、水と食料を日常の延長で備えておくことが出発点。
- 防災庁発足(2026年11月)でTKBの整備が進む方向性はあるが、今すぐ在宅避難できる状態を整える価値は変わらない。
まとめ
大きな揺れの後も、家族みんながいつもの食卓に座れる。子どもが慣れた布団で眠れる。見知らぬ人の隣ではなく、自分の家族のそばにいられる——それが、在宅避難というゴールの中身です。
避難所は、住む場所を失った方のために必要な場所です。住める家があるなら、そこにいることが家族を守る選択になります。そのために必要なのは特別な覚悟ではなく、「わが家が住める状態かどうか知っていること」と「日常の延長で少しずつ整えておくこと」の二つです。
特別な準備をするより、毎日の暮らしをちょっとだけ豊かにしながら、気づけば整っていた——そういう積み重ねが、家族の笑顔を守る一番の備えになります。
日常を整えることが、そのまま非常時の安心につながる。
とらまる
一緒に学ぶ仲間
白いしっぽの先がチャームポイントの、好奇心いっぱいのトラの子。わからないことは素直に「どうして?」と聞くのが得意で、みんなの「聞きたいけど聞けない」を代わりに聞いてくれます。
ふくぼう先生からもらった「まなびのスカーフ」が自慢です。
▶ とらまるのプロフィールはこちら ›関連記事
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